第10章 かきやりし その黒髪の 筋ごとに うち伏すほどは 面影ぞたつ
「シカマル」
天狐の燃える声が耳を焼く。
脳を焦がし、理性を焼き殺す。
「天狐」
お前も、俺の声で焼かれろ。
炎にもがき苦しんで、熱さを忘れさせてくれ。と恋うて欲しい。
もっと。
もっと。
「ひゃん」
「気持ちいいか?」
「きく、な」
「俺は聞きたい」
「う、うん。」
姫た果実。
手で揉みつぶせばつぶすほどに、甘くなりすぎた果汁が溢れる。
耳に付く音が、もっと強く燃え上がるようにと薪をくべる。
その炎は俺の理性を焼き尽くし、本能を剥き出しにして行く。
「悪りぃ、天狐。触れてくれ。」
「うん?」
普段の自分ならこんなこと絶対に言えない。
俺の腕に添えられ、炎の暑さに耐えていた天狐の細い手を、燃え上がる火元へと導く。
ピタリ。と触れた天狐の手は俺に油を注いだ。
熱さを増すソレに触れる天狐の手、火傷しちまえばいい。
「興を削ぐことを、言う。」
「あん?」
「人の雄の一物は、獣の物と比べ物にならないんだな。」
「当たり前。てめぇをヨクする物だ。俺のはお前を好くするためにある。」
「良く」
「お前は、俺をヨクしてくれ。」
天狐の返事はいらなかった。
その力の入った手が返事だ。
中途半端に堅かった物が、天狐の手によって一物になる。
何度も確かめるように、一物に触れる天狐の手。
急くような、けれど、じっくりと。
そこから言葉はいらなかった。
身体が解っている。
たとえ、初めてだとしても。