第10章 かきやりし その黒髪の 筋ごとに うち伏すほどは 面影ぞたつ
クスクスと俺の肩越しに笑う女狐。
歩く度揺れる度、俺の首筋にその艶やかな黒髪が擦る。
酒臭く火照った身体。
べったりと俺の背中にその身体をくっつけ、時折その獣の耳が俺の頭に当たる。
ため息とともに、不意に熱くなり始めてしまった葛藤が漏れる。
やましい思考だ。と一度は追い払う。
「まぁ、しかし。シカマルが来てくれるのを待っていた。」
「あのなぁ。俺は一度家に行ったんだぞ?お前が先に帰ってないかと思って。」
「待つと決めた。」
「少し、散歩に行ってくる。なんて言うからだろ。」
「何と言っても、シカマルが私を探すことに違いはないだろう?」
「うーん。そうだな。一応は探す。」
「うふふ。じゃろう?」
めんどくせぇ。
耳元に掠る熱くて酒臭い息に、また、葛藤のため息が漏れる。
そして、自分の良く回る頭を恨めしく思う。
想像してしまう、黒髪が乱れる様子。
落ちる帯に梅花が薫る。
その、妄想に現実味を帯びさせる道順を咄嗟に立ててしまった自分に腹が立つ。
「あー。知らねぇぞ。」
「うん?」
「俺が悪いのか?いや、お前が悪いんだからな。」
「何の事じゃ。」
そういいながら、本当はカカシが悪いんじゃないのか?と思いなおした。
あの食えない銀髪片目の胡散臭い奴が、こうなることを見越してこいつに浴びるように酒を飲ませたんじゃないのか。と疑る。
いや、仕事場でこいつを見た時の顔からして、あわよくば自分が。と思っていたのかもしれない。
だとしたら、意地でも自分で見つけ出して正解だった。
「おい、シカマル。何処へ行く?」
「俺も酔った。どこかで休む。」
「は?」
そこは忍らしく、フ。と天狐と共に姿を消し、薄暗い中怪しい色香を放つ休み処へと足を踏み入れた。