第9章 君待つと 我が恋ひをれば わが屋戸の 簾動かし 秋の風吹く
「何してたの?天狐は。」
「いのに甘味を奢って貰っていた。今度なにか礼をしなければと考えている。」
「偉いわね。うちの男どもとは大違い。」
「あのなぁヨシノ。それは言いがかりってもんだぜ。」
「仕事と鹿の事で頭がいっぱいなあなた達は、ちょっとくらい私に感謝してくれないとね。」
「うぅ。いつもありがとうよ、ヨシノ。」
「もう!誰が今言えって言ったのさ!」
「感謝の念くらい、いつでもどこでもいいだろうが。唐突に思いつくもんだろ。」
「きっかけは誰だったかしらね。」
「……。」
くつくつと笑いが漏れてしまう。
人の夫婦はまるで芝居のように面白い。
これらもまた甘味へ行くと言うので、そこで別れた。
あまり食い過ぎるとシカマルがあーだこーだと煩いから。
とすると、シカマルにも何か礼をした方がいいのだろうか?
いや、あれには何となくそんな必要はない気がする。
なにをしてもきっと、その三白眼が見開かれる事はないんだろうなと思う。
「チョウジ。」
「ん?あ、天狐!」
今日もしょっぱい菓子を片手に少しいそいそと歩くチョウジを見つけた。
これとは息が合う。
食って身を肥やす事の素晴らしさを知っている。
「散歩か?」
「これから仕事に行く所なんだ。天狐は散歩?」
「うん。そうか、仕事だったか。励めよチョウジ。」
「ありがとう。じゃぁ、またね。」
シカマルといの、チョウジといく焼肉とやらは至極の時間だ。
最近ではとんとそんな機会も減ったと言っていたが、定期的に集まるように心がけているようだった。
気が付かないうちに足が向かっていたのは、よくシカマルと昼寝に来る空き地。
あれの事だ、私がなかなか戻らなければきっとここへ来るだろう。
シカマルの仕事が終わるまで後一刻ほど。
待って過ごすことに決めた。