第9章 君待つと 我が恋ひをれば わが屋戸の 簾動かし 秋の風吹く
「毎度すまなんだ。馳走になって。」
「いいのよ。代金はシカマルに請求して置くから。」
「サクラも土産の菓子ありがとう。」
「いいえ。それは私からの贈り物よ。」
「嬉しい。」
ここまで屈託のない笑顔で見送られれば、こちらも何か喜ばれる事をしたくなる。
シカマルに何か出来ないかと打診してみよう。
面倒くさがるのが目に見えているが、礼を返さないのは如何かと思うからな。
うん?
風上から歩いてくるのはあの犬使いの雄と犬。
これは避けるべき。
あれは私を犬と一緒の土俵に上げる。
犬と一緒くたにされるなど、狐としての自尊心が堪らん。
あれの姉は心配性で、こちらを見つけるとすぐに身体のいたるところを調べる。
大事ないかと心配してくれるのは嬉しいのだが、如何せん気にし過ぎと思う。
「天狐、散歩か。」
「うん。先、いのに甘味を奢って貰っていた。」
曲がり道からシカクが現れ、その手に身を伸ばし抱いてもらう。
「ちょっとあんた!荷物くらい持ちなさいな!」
「おう、母ちゃん。天狐がいたぞ。」
「はいはい。じゃぁ、天狐は私の所においで。で、荷物はお前の所だよ。」
「あー、ハイ。」
後ろにはヨシノが居て、本当にこの夫婦は中が良い。
私はシカクの腕からヨシノの腕に移り、収まり良く黙って抱かれる。