第9章 君待つと 我が恋ひをれば わが屋戸の 簾動かし 秋の風吹く
それからというもの。
天狐の噂は瞬く間に広がり、仲間の耳目を集めた。
特に、口に戸を立てぬキバの野郎がベラベラと話して回るからなおのこと。
あの犬バカは、天狐を忍狐として有能だと言いふらすから大迷惑だ。
天狐を連れ執務に励んでいると、珍しい人が俺の元を訪れた。
「カカシ先生?どしたんすか?」
「ちょっと手が空いたもんで、シカマルの相棒とやらを見に来たんだ。」
「あんたもっすか。みんな暇だな。」
「だってー、噂ではそうとう美人の狐なんでしょ?そりゃぁ気になっちゃうよね。」
「狐に美人もへったくれもないってもんですよ。」
「あら。そう言わないの。俺はこれでも忍犬使いだしね。動物の良しあしくらいわかるつもり。」
足元に視線を落とせば、かち合う視線。
逐一会話を聞いて、恨めしい視線を俺に送ってきていた。
天狐も暇を持て余して惰眠を貪っていた訳で、いいかもが来た。と言わんばかりに贅沢に伸びを一つ。
「お、君が噂の天狐ちゃんね。はじめまして。」
「初にお目に掛かる。」
「おしゃべりできるのね。うわー、美人。」
「カカシとやらはこれよりも数倍目が良い。どれ、シカマル。私は少し散歩に行ってくる。」
「へぇへぇ。」
天狐は自分を褒めるカカシを褒めちぎり、菓子でも奢ってもらおうと画策しているのだろう。
カカシも満更でなさそうに、天狐と共に資料室を後にして行った。
ひっきりなしにやってくる天狐見たさの奴ら。
愛嬌とおねだりと、褒める口を覚えてしまった狐はますます肥えるばかり。
これが、あの人の天狐だとすると嫉妬も覚えてしまうが、やはり天狐は、人里で人に成る事を拒むから、心のどこかで安心していたのだろう。
俺は自分に付く匂いだけを心配していた。