第2章 春の夜の 闇はあやなし 梅の花 色こそみえね 香やは隠るる
あれから二週間。
狐はぐんぐんと良くなり、俺への警戒心が無くなったのか、それほど怯える事は無くなった。
餌をやる時も特に忍術で押さえなくとも、大人しく檻の奥で待っている。
下半身の包帯も取れ、剥き出しになっていた皮膚に黒い毛が生え始めた。
キバにこの事を相談すると、もう、野に還しても問題は無いだろうと言う事だった。
「なんか、寂しくなるわね。じゃぁね、クロちゃん。元気でね。」
「名前付けたのかよ。」
「黒い狐ちゃんだもの、クロちゃんでしょ。」
以前この狐が倒れていた場所へ檻ごと連れて行き、扉を開け、姿を隠す。
しばらくして、がさがさ!と一瞬音が聞こえたと思ったら、藪の中へ飛んで行く黒い尻尾が見えた。
「あー、行っちゃった。」
「行っちゃっていいの。むしろ行かないと困るっての。」
これが。
まるっきり俺の休みが潰れてしまった負の記憶だ。