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~短歌~

第2章 春の夜の 闇はあやなし 梅の花 色こそみえね 香やは隠るる




次の日、朝に覗いてみるともちろん餌は空っぽだった。
よほど腹が減っている狐のようだ。
しかし、昨夜のようになんとしてでも俺から離れよう檻に体を押し付けてはいなかった。
警戒はしているようだったが、奥に潜み身を固く丸めているだけだった。
この様子なら獣医に診せられそうだ。

「じゃぁ、麻酔は2時間ほどで切れるから。」
「はい。どうも。」
「おだいじに。」

おだいじにって、ペットじゃねぇんだよ。
怪我の具合は、まぁ特に変わりなく。
飯を良く食うから治りは早いだろうと言うのが獣医の見解。
家に戻ってきて、狐の檻を元の位置に戻し、また布を掛けて餌と水をセットして放置。
何事もなかったかのように振る舞う。
そうしろってキバが言っていた。
そして、噂をすればなんとやら。

「よ、シカマル。狐はどうだ?」
「変わりねぇよ。今は、麻酔が効いて寝てる。」

さすがは忍犬使い。
特に音もたてず、慣れた様子で檻の中を覗いていた。

「黒い狐か。珍しいな。」
「ふぅん。」
「野生に戻すの持ったいねぇな。かわいいのに。」
「どうすんだよ狐なんか飼って。忍犬みたいにするのか?」
「狐かぁ。やったことないな。」
「やるならこいつじゃないのでやれよ。絶対俺恨まれてんだから。」
「なんかこいつ、頑固そうだもんなー。」

餌だの水だのの世話をする度、黒い顔にポツポツと金色のボタンのように付いている両の目で、じっと俺を睨みつけてくる。
こんな奴が忍犬になんかなって、心得ちゃったら俺を殺しにくるに違いねぇ。

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