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~短歌~

第8章 筑波嶺の 峰より落つる 男女川 恋ぞ積りて 淵となりぬる




蝉の声がしだいに聞こえなくなり、次には鈴虫や蟋蟀の声がわいわいと賑やかになる。
しかし引きずる暑さは厳しく、風鈴の音が恋しい。
俺の横に居る獣の耳を生やした女は、最近習い始めた影を操る術をなんとか会得しようと眉をひそめる。
出来ない出来ない!と口では怒りつつも、出来ない事を俺に聞きに来る口実にしているような気がしてならない。




秋初めの冷たくなり始めた夜の風。
湯で温まった身体を縁側で冷ます。
縁側の先、庭に立つ葉だけの梅の木を眺めながら過ごすこの時間がどうしても好きだ。

「シカマル。すまぬが髪を拭いてはくれぬか?」
「あ。いいぜ。」

風呂が嫌いな天狐。
いつもおふくろに怒られ怒られしながらいやいや最後の湯を使って入っている。
理由はもちろん湯船が毛だらけになるからだ。
俺の髪が乾き切る頃、ようやく不機嫌に髪の毛、耳、尾を湿らせた天狐が、俺の横の縁側にドスンと座ってタオルと櫛で一生懸命毛づくろいをする。

「まったく。人はとんと匂いには疎いと言うのに、こうも毎日風呂に入る意味が解らん。」
「気分がいいじゃねぇか。」
「入っている時はの。上がった後の事を考えると鬱じゃ。」

どうして俺と同じシャンプーを使っているのに、何となく梅花の香を感じるのだろうか。
初めて会った時から伸びる事はない艶やかな黒髪は、貴族の娘かと思うほどに手を掛けて綺麗にしている。
もちろん狐に身を戻した際、よくよく毛づくろいをしているのと同じ事なのだろうが、人に成ると嫌に目立つ気がする。


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