第2章 春の夜の 闇はあやなし 梅の花 色こそみえね 香やは隠るる
「ようキバ。」
「ん?うん?シカマル。獣臭いぞ?」
「あぁ。昨日な。」
市場をひやかしながら歩いていると運よく犬塚キバに出くわした。
昨夜の事を事細かに話すと、あれがいいだの、これがいいだのと両手いっぱいに餌やらタオルやらを買わされた。
「後は人に慣れてくれりゃ、簡単に触らせてくれるぜ。」
「野生の動物がそんなんで生きていけんのかよ。」
「狐は好奇心が旺盛だからな。何にでも興味を持つけど基本はビビりだ。慎重に接してれば安全と判断してくれる。」
「はいはい。」
今度見に行くなー!と俺とは真逆のハイテンションで去っていくキバ。
さすがは犬塚家。
本当なら覚えたくもない知識が、どっさりと俺の頭にインストールされた。
家に戻り、早速先ほどの知識を見せびらかす。
案の定狐は餌に手を付けておらず、水も飲んではいなかった。
キバに言われたように、檻を布で覆い、餌や水は素手では触らず取り換え、人間の匂いが付かないようにした。
その間はもちろん影で縛らせてもらった。
この方法なら痛みを与えなくて済むし、狐に触らないで済む。
本当なら包帯を換えて、傷に薬を塗ったりする方がいいんだろうが、相手は野生の狐だ。下手に触れるのは危険。
「おい、狐。早く治してさっさと帰れ。」
その日の夜。
そっと檻の布を持ちあげ様子を見ると、餌と水が空になっていた。
当の狐は、いち早く俺の気配に気が付き俺から一番遠くに行こうと檻の奥にぎゅうぎゅうと身を押しつけていた。
「んだよ。だから、なにもしねぇって。」
昼間と同じ要領で、餌と水を入れ、また布を掛ける。
飯を食ったなら後は怪我が治るのを待つだけだ。
案外と早くこの狐とおさらばできそうだ。