第7章 恋すてふわが名はまだき立ちにけり人知れずこそ思ひ初めしか
「ん。シカク。」
「あぁ、起きたか天狐。もう大丈夫だ。」
「何で助けた。いいと言った。」
「駄目だ。これは俺の自己満足。オレの息子が大事にしてるものを目の前で失う訳にゃいかんだろ。」
「人間に近づいた者は決して無事には戻らない。山のモノの掟じゃ。」
「残念だが、お前はただの山のモノじゃねぇ。星の名を背にする妖狐だろ。いいか?オレは好いた相手に全力で挑まない奴は嫌いだ。お前然りシカマル然り。」
「なら嫌いでいい。」
「玉藻前。」
シカクが真顔でそう言った。
シカクには私の祖に玉藻前がいると話してある、その口から出てくるのはおかしくもなんともないが、そうではないだろう。
伝記のことを言っているのだとすぐにわかった。
「お前は魅力的だ。鳥羽上皇を骨抜きにしたぐらいにな。」
「あれの最後を知ってるか?」
「もちろんだ。でもありゃ、何も知らなかった鳥羽上皇が悪い。人を喰い殺そうとした玉藻前も悪い。」
「そう。」
「お前は人を喰わないし、シカマルはお前を知っている。」
「ふん。」
「北斗七星の化身、黒狐の天狐。お前は狐じゃない。でも、人でもない。その事を良く考えろ。じゃぁな、オレはヨシノに伝えてくる、次来るときゃふがし、持ってきてやるからな。上手くやれよ。」