第7章 恋すてふわが名はまだき立ちにけり人知れずこそ思ひ初めしか
「顔が赤くなるのはな、酒が美味しくて話が弾むからさ。お前もちっと飲んでみろ。」
「う、うむ。」
つい。と小さな盃を両の指先で挟み、恐る恐る酒を口に流し込んだ。
ぴりぴりと舌を刺激し、甘い味が口に広がる。
こくり。と飲み下せば喉が燃えるように熱い、けれど心地良い。
思わずぎゅっと目を瞑ってしまった。
「どうだ?」
「意外に美味いもんだな。」
それからシカクといのいちに囃し立てられるように酒を飲み、気が付いた時にはシカクの膝に頭を乗せ、だらりと横になっていた。
「この間よ、シカマルが色気づいたみたいで女物の櫛を買って来ててよ。」
「もう彼女が居たっておかしくない年じゃないか。で、どんな子?」
「あぁ。その櫛は私の櫛だ。毛を梳くのに良いとくれた。」
「なんだ、あいつの色は天狐だったか。」
「へぇー、似合いじゃないか。なぁ。」
「まぁ、天狐なら良し。人だの狐だの分けるようじゃ男じゃねぇ。」
「言うねぇシカク。」
「好いた相手が何者でも、思い通せば道が出来る。先に何があるかなんざ、人同士ですらわかんねぇんだからな。」
道が、出来る?
それはまことか?シカク。
そんな質問をした気がする。
夢現のふわふわした頭で。