第7章 恋すてふわが名はまだき立ちにけり人知れずこそ思ひ初めしか
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気もそぞろな木陰を歩いて歩いて、一つ掴んだ匂いを辿って歩く。
忍と呼ばれる人らが往来する廊下を進み、掴んだ匂いの元へとたどり着く。
こんなにと歩くつもりはなかったな。と思いながらも、帰りに抱いてもらうのに渇いた喉のまま声をかける。
「シカク。」
知らぬ匂いだ似た匂いだといちいち嗅ぎ分けるのは飽きた。
今は目の前にシカクがいる。それで良い。
「ん?天狐。何だこんなところに。」
「いや、なんだ。散歩がてらにな。」
「シカマルはどうした?」
「任務。」
何の仕事をしているのか解らないが、何やら巻物と格闘しているのは下からも窺えた。
椅子に座ったまま腰を上げないと言う事は、暇ではないと言うことなのだろう。
別にシカクを困らせに来た訳ではないから、大人しくシカクの足元に丸くなる。
「どうした天狐、具合でも悪いのか?」
「うむ。暑気あたりか鬱々しい。」
「そら、困ったな。帰りに美味いもん食って帰ろう。な。」
「うん。」
ウトウトしているうちに日は傾き、快晴の空には西に沈む太陽。
高い所にある窓からは、いくらか和らいだぬるい風が私の夏毛を揺らした。
「天狐。帰るぞー。」
シカクの声に重い身体を仕方なく動かし、ぐぐぐ。と体いっぱい伸びをする。
「さぁて。何食って帰る?肉か?魚か?」
「シカクの勧めで決めることにしようかの。」
「おっし。じゃ、いつもの居酒屋。おら、抱っこな。」
「うむ。」
ぐいん。と上がった視線にここが何かの研究施設だった事に今気が付いた。
「シカク、いいな。俺も行こうかな。」
「あん?お前もか。天狐、連れもいいか?」
「別にかまわん。シカクの好きにするといい。」
「じゃぁ、いのいち、行こうぜ。」
「すまないな。天狐ちゃん。」
「天狐の分、お前が持てよ?」
「しょーがないな。いいよ。」
いのいち、と言う雄たぶんこいつは、山中いの、の父親だろう。
呑気にたいして内容もなさそうな、自分らの子の話をする二人の雄は父親の顔だ。