第7章 恋すてふわが名はまだき立ちにけり人知れずこそ思ひ初めしか
真後ろに迫った二羽の鷲。
飛び降りたところで捕まるのがオチか?と思ったその瞬間、その二羽の背後から、ぬ。と影が持ちあがる。
親父だ。
「飛べ!シカマル!」
「ちっ!」
「おら!もういっちょ、牙通牙!」
「ワン!」
腕の中で何やら文句を言っている天狐の言葉は聞こえない。
捨て置け。って言っているのなんて聞こえない。
巣を飛び降り、ずっと下の地面を目指して何度か壁岩を蹴る。
「シカマル君!こっち!」
忍でもあり獣医でもある、ハナさんがもしもの事を想定して、木が生い茂り傘になっている所に綺麗な布と手術道具を広げていた。
「お願いします!」
天狐を抱いていた俺の胸にはべったりと血が付着していた。
まだ温かい血がきもちわるい。
「よい…もう、いい。」
「だめよ!死なせはしない。」
「いい」
「生きなさい!天狐ちゃん!」
「みたくない、んじゃ。しかまる。」
「シカマル君?」
ハナさんが必死に手を動かしながら、天狐の意識が途切れないようにと話しかけ続けている。
聞きたくない。
出来れば聞きたくないからここを離れたい。
ここを離れたいけど足が動かない。
足が動かないから目を逸らそうとするが瞬きが出来ない。
瞬きが出来ないから天狐の金色の瞳と目が合う。
「きらいじゃ」
「俺も嫌いだ。」
「どっかいけ」
「足が動けばな。」
「あきらめろ」
「めんどくせえ。」
人に近づくと碌な事がない。と聞こえたのと親父が天狐をかっさらって里に向かって走り出したのはほとんど一緒だった。
「ねぇちゃん!シカマル!シカクさんが天狐を火影様に見てもらうって。俺たちも行くぞ。」
「待って、キバ。あの鷲の親子はどうなった?」
「もちろんぶっ飛ばしてきたに決まってんだろ。」
「ワンワン!」