第7章 恋すてふわが名はまだき立ちにけり人知れずこそ思ひ初めしか
冷静になれない自分の頭ん中に、形にもならない余計な言葉ばかりが浮かぶ。
あいつばかりが我慢して、俺が呑気に餓鬼扱いか。
馬鹿言ってんじゃねぇぞ。
壁岩に脚を付けて垂直に走り上る。
巣まであと少し、しかし、敵だって獲物を取られる訳にいかない。
背後からもう一羽迫ってきていた。
鷲はペアで行動する。
雄雌共同で子を育てる。
一匹だけしか親がいねぇのはおかしい。
こんな小さいクナイでなんとかなるとは思っちゃないが、俺は思い切りその顔めがけて腕を振る。
「ギャーッ!」
上手い事目を掠ったようだがたいしたダメージじゃない。
巣に近づけば、こちらが雄なのだろう4mの鷲が嘴を突き出してくる。
「やりづれぇ!赤丸!牙通牙いくぞ!」
「ワン!」
キバと赤丸の捨て身の牙通牙。
おかげで巣に居座って、上から俺たちに攻撃してきていた雄鷲はダウン。
岩を蹴って巣に飛び込めば、天狐は子供とは言え大きな鷲に押さえつけられ何度かつつかれていた。
「やめろ!」
「来るなシカマル!にげろ!」
「馬鹿かおめぇは!おふくろが悲しむだろうが!」
嘘ばっかり。
「あの雄はまた戻ってくるぞ!」
「キャー!」
「うぎゃっ!」
子供の癖に、いや子供だからなのか加減を知らず天狐をつつく。
飛び散る黒い毛と千切られた血肉。
慌ててチャクラを練り直し、影縫いを発動させる。
子は押さえた。しかし、背後に迫る狩人の羽音は止められない。
いい。
俺はいい。
俺の背中は大丈夫。
「天狐!」
「う。ばか。」
ひゅうひゅうと息をする様子から、知識の浅い俺でもコイツの傷が肺に達している事が分かる。