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~短歌~

第7章 恋すてふわが名はまだき立ちにけり人知れずこそ思ひ初めしか




新しい櫛を天狐に買ってやってから、あいつは随分狐らしくなったと言うか獣らしくなったと言うか。
随分口数が少なくなったように思えた。
いや、どちらかと言うと俺と話をしなくなったと言った方が正解。
夜になりゃ縁側で西瓜をつまみに親父と談笑しているし、蒸し暑い昼間はおふくろにかき氷をせがんでいた。
ただ、俺と一緒にいないかと言えばそうじゃない。
執務仕事の時は涼しいからと短く言って付いてくる。
ちょっと身体を動かそうと鍛練にいくと昼寝のためと付いてくる。
外への任務には付いてこなくなったが、隠れて匂いを調べているくらい解る。

あれだって頭が悪い訳じゃない。
あと、俺も。

あの時垣間見た天狐の嫉妬は、あれ以来見ていない。
ひた隠しにしていると言った様子。
自意識過剰、随分なナルシストだと前置きして言う。
俺はあいつに好かれている。
どういった意味で?と問われると、二つに分かれる。
犬が人に懐くように。
それと。
女が男を好きになるように。
完全に後者。
なぜかって?
あいつが頑なに狐でいようとして、俺には人の形を見せないでいるからだ。
狐と人。
一線を画して、これからも今までの関係を貫こうとしている。
だったら出て行けばいいのに、と思うかもしれない。
けれどあれは分別のある狐。
自分の思いさえ隠していれば、俺が自分の嫉妬の事など忘れてくれるだろうと思っているからだ。
だから、俺にはただの獣であろうとする。
それをめんどくせぇと思うのは、俺もめんどくせぇ事になってるからだ。
既に。
時既に遅し。だ、馬鹿。


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