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~短歌~

第6章 行く水に 数書くよりも はかなきは 思はぬ人を 思ふなりけり




「どら、貸してみろ。」
「いやじゃ。自分の毛を自分で梳けなくてどうする。お前は飯を食ってろ。」
「あーはいはい。お前は食ったのか。」
「うん。」

頑固な狐だ。
女の形で言うもんだから余計に手を出しにくくなった。
飯を自分で準備しさっさと食い終え、悪戦苦闘する人の形の天狐を観察することに決めた。
いただきますとごちそうさまを一人口の中だけで発音し、興味津々なことを読まれないように、さらりと茶の間に居座る。
天狐が読んでいた忍法の巻物を手にして、左右の髪の毛はなんとか出来るようになった様子を観察する。
しかし、視線の熱を勘良く悟った天狐が恨みがましい視線を返してきた。

「そんなに面白いか?」
「あぁ。後ろの髪はいつ櫛を通すのかと思ってた。」
「今やる。」

そうは言うものの、それなりに髪の長い天狐が、上手い事後ろ髪の下まで櫛を通せる訳がなかった。
見ていてもどかしい。

「貸せ。」
「おい!」
「狐が無理して人間の真似する必要なかったな。」
「ある!」
「どこに?」

天狐の手からぐいと櫛を奪い、ちょっと厭味だったかと思いながら馬鹿にする。


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