第6章 行く水に 数書くよりも はかなきは 思はぬ人を 思ふなりけり
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朝、目を覚ますと、いつも同じ時間に寝起きする天狐はそこにいなかった。
夜中、目を覚ました時に聞いた声は夢か?
絡まる長髪を指でぐいぐい梳きながら、茶の間へ降りると、まだ少し埃っぽい匂いをさせる黒い長い髪を雑にまとめた天狐が、せっせとおふくろの手伝いをしていた。
「おはよう。」
「早う。」
「おはよう、シカマル。今日は弁当いるの?」
「あー、いる。」
おふくろと一緒になって、狭い台所をちょこまかと動き回る天狐はさながら妹のようにも見える。
自慢の尾は邪魔にならないようにと、腰帯に挟まれちょっと間抜けだなと思った。
漏れたのか読まれたのか、飯を持ってきた天狐に冷ややかな視線を貰った。
「ごきげんじゃな。」
「良く眠れたからな。やっぱり自分ちじゃないと眠れないもんだな。」
「ふん。当たり前なことを。さっさと食ってさっさと火影の元へ行くんだな。」
「お前はどうする?」
「今日は山へ行く。」
「はいよ。」
何か気に触る事でもあったのだろうか。
耳はピンと立ち、尾も心なしか膨らんでいるようにも見えた。
言葉の端端に棘があり、俺の肌を掠っていった。
やっぱり綺麗に毛づくろいが出来ないからだろうか?
だから、櫛を使えばいいと言ったのに。