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~短歌~

第6章 行く水に 数書くよりも はかなきは 思はぬ人を 思ふなりけり




夜中青蛙すらも寝静まった刻、ふと眼を開けると茶の間だった。
人の寝入る音しか聞こえない。
ここでもう一度目を閉じようとも思ったが、シカマルが夏の暑さに呻く寝言が聞こえて、思わず足が向いた。
シカマルの巣に入り、顔を見るまですっかり忘れていたのは砂の里で風化されたざらざらの心。
急にせり上がり思わずため息が出た。
随分大きいため息だったのか、シカマルを起こしてしまった。

「ん?天狐。」
「すまぬ、起こしたな。」
「いや、腹、へってねぇか?」
「大事ない。」
「そ…。」

飯を食い損ねた事を心配してくれたシカマルに、冷たく当たってしまう私は何だと言うのか?
なにがそんなに私の心を砂交じりの暴風に晒すのだろうか。
ほとんど開きもしなかったシカマルの目はまた閉じられ、おだやかな寝息が聞こえる。

(いや、まったく。まったく)

嫉み妬みの青い実だ。
そうだそうだ。
そう勘付けば、すっと胸が軽くなり、名前を貰った小さなその実がぐんぐんと大きくなる。

(かなしったりゃありゃせんな)

青い実の中に出来る悩みと言う名の種。
しばらくは見ないフリをする事に決めた。
いつもの毛布に丸くなり、無理に眠気を呼びもどす。
その夜、玉藻前と鳥羽上皇の夢を見たのは、血潮に眠る祖の仕業だったのかもしれない。


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