第6章 行く水に 数書くよりも はかなきは 思はぬ人を 思ふなりけり
翌朝、日が昇り切る前に起こされ、これから木の葉の里へ帰ると言う。
一応テマリに昨日の食べ物の礼を言い、出発するシカマルに持ち上げられる。
「じゃぁ、また。気を付けて帰れよ。」
「あぁ。ありがとな。」
気さくなこのやり取りにも腹が立つ。
自分がただの狐になってしまったようで、通力持ちの自尊心は砂交じりの風に風化されてしまった。
砂の小さな粒で傷が付き、仙人掌の棘でちくちく刺されたような。
里に帰るまで黙って抱かれていた。
月が完全に上った頃、ようやくと奈良の家に着き、思ったよりも体力を消耗しており、飯の前に眠ってしまった。
嗅ぎ慣れたこの家の匂い。
ヨシノとシカクの匂い。
シカマルの匂い。
毛の深い所に残る小さな砂を払う気力もなく、安心できる匂いに包まれ、襲い来る睡魔に身を任せた。