第6章 行く水に 数書くよりも はかなきは 思はぬ人を 思ふなりけり
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私が暮らす人里とはだいぶん趣が違う。
木々や草の匂いは無く、埃っぽい匂いを風が運んでくる。
からりと乾いた風は毛皮の中に砂を運び、炎帝の日差しは自慢の黒毛に熱を溜めていく。
会議の後、シカマルと何やら知己のテマリと言う雌と共に、砂の里を歩きまわった。
かき氷や水羊羹、よく冷えた西瓜など、テマリが快く食べさせてくれた。
「あんまり甘やかすな。太るだろうが。」
「考えて買ってるよ。」
砂が良く舞うこの里では、人間達は暑いにもかかわらず布で顔や体をすっぽりと覆っている。
白い色を纏う者が多いのはなぜだろうか。
「お前が動物を愛でるなんて思いもしなかった。」
「あ?だから、愛でてねぇ。勝手に家に上がりこんだんだよ。」
「人の言葉が分かって可愛いものな。天狐は。」
「可愛くねぇって。」
「意外な一面を垣間見れてよかったよ。」
「はぁ。」
移り気の多い雄だなシカマルは。
仲間のいのだけならずテマリとも仲良くする。
テマリも満更でないのが少し気に触った。
シカマルが誰か他と話すと、私への気が散漫になるのを背に感じるのだ。
馴れぬ異国の地だと言っているのに、よくも。
つまらぬ。
「シカマル。疲れた。」
「あ?お前が見て回りたいって言ったんだろうが。」
「まだ見て回りたい。しかし、手の裏が熱いし、私の背丈ではよう見えぬ。」
「わかったよ。」
始めは私を抱き上げるのにも怖々だったシカマルの手。
今ではだいぶ粗暴に扱うが、収まりのいい所をすぐに見つけてくれる。
高くなった視線と強くなったシカマルの匂い。
知らぬ異国の地で側に知った者がいるのは何と心強い事か。