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~短歌~

第6章 行く水に 数書くよりも はかなきは 思はぬ人を 思ふなりけり




部屋は外より涼しい。
天狐を降ろし、まず、廊下で身体に付いた砂を払ってくるように言う。

「口の中がじゃりじゃりする。」
「あーあー、舐めるな。脱がしてやるから払って来いって。」

すぽん。とおふくろ手製の服を脱がせ廊下へ放る。
ばさばさとしばらく音が続いて、ようやく中へ入ってきた。
身体を触って見れば、まだ埃っぽかったがだいぶマシになった。

「粒の細かい砂は奥まで入り込むのだな。しばらくは毛づくろいは出来そうもない。」
「砂食っちまうからな。やめとけよ。」
「うむぅ。」

黒光りするほど綺麗に保たれていた毛は薄汚れ、見てくれが悪い。
櫛でも買って毛を梳いてやろうか。
テマリが言ったように、それからすぐに使いの者が来て、夕食になった。
こいつはさんざん買い食いをしていたが、俺は腹が減っている。

「じゃぁ廊下で待ってろよ。狐が食堂に入っちゃ悪いからな。」
「何がどう悪い。泥にまみれているような猪とは違う。」
「毛が抜けるって言ってんの。」
「どうしたシカマル。」
「あぁ、テマリ。部屋で待ってろって言ったんだがな。自分も食うと言ってここまで付いてきちまった。」
「天狐なら問題ないよ。おいで、天狐。席と皿を用意させよう。」
「…あのなぁ。」

甘やかすなって。
揚々とテマリについて歩いて行ってしまった天狐。
もうこれはどうする事も出来ない。
仕方なく食堂に入り、並んだ善の前に座って待っていたゲンマの横に座りため息。

「なんだ。天狐の方が優遇されてるな。」
「くそ我儘なお狐様っすから。」
「はは。狐は懐に潜りこむのが上手いか。」
「せいぜい化かされないようにって言うのが、俺の精一杯っすよ。」

ちゃっかりと自分の横に準備される天狐の席。
なにと言う訳ではないが、自慢げにこちらを見上げて来ているのは間違いではないはずだ。


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