第6章 行く水に 数書くよりも はかなきは 思はぬ人を 思ふなりけり
「段々と乾いた匂いがする。」
「そろそろ砂が見えてくる。里に入ったら降ろしてやるから、少し我慢しろよ。」
「うん。」
数日かかり、砂の里が近づくにつれて、木と豊かな草に覆われていた地面はだんだんと木が無くなり草がまばらになり、やがては岩ばかりになる。
岩もいずれ小さな石になり、砂利になり、大粒の砂へ。
「おお。コレが砂の里か!」
「まだ遠いけどだいたいそうだ。」
ようやくさらさらとした砂に変わり、にわかに走りにくくなる。
じりじりと太陽が照り体温が上がる。
暑苦しい毛皮を携えた獣を胸に抱いているから余計に暑い。
暑いからと脇に抱えたら怒るだろうか。
「暑い。」
「ったりめーだ。」
「こんなに暑いのは初めてじゃ。」
「平気か?耐えられなくなったら言えよ?」
「うん。」
早く涼みたい、の一心で砂の里に駆け込んだ。
ゲンマも同じ頭だったようで、里に付いた途端茶屋に入り、冷たい水を!と叫んだのはほぼ同時だった。
「可愛いって言ったが、あれ、訂正だ。」
「なんでっすか?」
「黒は暑い。」
「同意っす。」
茶屋の看板娘にちゃっかり団子を貰っている天狐。
わっさわっさと揺れる尻尾が襟巻に見えて暑苦しい。
最近は愛嬌を振りまく事を覚えたようで性質が悪い。
狐め。