第6章 行く水に 数書くよりも はかなきは 思はぬ人を 思ふなりけり
砂への使いは、共に中忍試験の実行を担当する不知火ゲンマ上忍と二人で行く。
見習いの忍狐を連れて行く。という事で天狐を無理やりにねじ込ませてもらった。
朝一番に駄菓子屋に行き、持てるだけのふがしを買いこみ、なぜか俺が小さいころに来ていた半袖を改良した物を着た天狐を連れて出発する。
「忍狐たぁ珍しい。名前は?」
「天狐です。」
最近忍びの修業に凝り出した天狐だったが、まだまだ修行が足りないようで、今回の移動も俺の腕の中でのんびりだ。
当の狐は、早く砂の里が見たいのか、早く早くと急かすようにその大きくて暑苦しい尾で俺の足を叩く。
「よろしくな、天狐。」
「うむ。」
「あんまり我儘だったら叱っていいっすから。」
「ははは。狐は犬じゃないからな。そこが可愛い。」
「そっすか。」
可愛いって。
コイツのどこが可愛いんだよ。
我儘で強引で、自分勝手。
寝ている時だけは可愛いと思わなくもないが。
「で。どうしてお前は服を着てる訳?」
「ヨシノが毛が焼けてしまわないようにと着せてくれた。」
「あっそう。」
白地で、背中に大きく「鹿」とかかれたダサイ半袖。
狐用に詰めてあるのかサイズはよさそう。
コレで野生の狐に見えなくなった訳だが、このダサイ服を着た狐を俺の狐だと言って連れて歩くのはいささか気が引けた。
しかし、天狐は随分と満足そうにこの服を着ているので、ダサイと言うのもまた気が引ける。