第5章 忍れど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで
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人間の家に居つく。
今までの狐の歴史でそんな事があっただろうか。
いや、そうとう昔の話になるが、私の祖である玉藻前は人の王に好かれたと言う話がある。
伝説の様な話が自身の身に降りかかるとは思ってもみなかった。
この家の人間は皆良くしてくれる。
せめてもの恩返し、と苦手な人の姿を取りヨシノの手伝いを覚えることにした。
家事。とやらが一連して終わると、散歩がてら山へ行く。
山の鹿たちの様子を見て、昼を過ごし、夕刻シカマルとシカクが家に戻る頃を目途に私も帰る。
「ヨシノ、てつだおう。」
「じゃぁ、手をきちんと洗って。いつものお皿をだして。」
「うむ。」
ヨシノに教えてもらった、ゆかた、という着物。
あの前の着物よりすごく楽だ。
言われた通りに手を洗い、椀を運ぶ。
そうこうしているうちにシカクが帰って来たので、ヨシノに迎えに行くよう頼まれる。
「おかえり。じゃったか?」
「おう、合ってるぞ。ただいま。」
シカクはいつも私の毛が乱れるまで撫でる。
嫌ではないが、人の毛は整えるのが大変でならない。
「シカマルはおらんのか?」
「今日は帰れないとよ。火影様に捕まってる。」
「つかまる?」
「仕事をしてる。」
「ふん。大変じゃな。」
人間特有の食卓という物と椅子に座って、平皿では無く、人間と同じく椀に入れられた白米を食べる。
まだシカマルたちのように上手く扱えないが、箸という物にも挑戦している。
初め人間の食事は熱くて食えるものでは無かった。
「あら、シカマル帰ってこれないの。」
「なぁんか忙しいみたいだぜ。中忍試験も迫ってるし、あいつは中忍で試験する側だから余計なんだろうよ。」
「天狐ちゃん。悪いけど、食事が終わったらシカマルにご飯を届けてくれない?」
「あいわかった。」
もちろん安請け合いでは無い。
ヨシノと共に何度か、おべんとう、という物を届けた事がある。
食事を終えた後のヨシノは忙しいし、シカクは休む。
シカマルの元へ行けるのは心が躍る。