第5章 忍れど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで
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試しに天狐を任務に連れて行った帰り、駄賃を貰って狂喜乱舞するかと思ったが、あっさり金は俺に預けるし、何となく腑に落ちない様子だった。
家に帰れば、おふくろが豪勢な飯をコイツのために用意して待っており、すっかり上機嫌になっていたが、俺の部屋で毛づくろいをしている時も何となく近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。
「んだ、今日は帰らねぇのか。」
「明日一番にふがしを買いに行く。ここで寝るのが一番だと思った。」
「好きだなふがし。」
「サクッとふわっとが美味い。甘いしの。」
ふがしを思い出しているのか、口がだらしなく開いている。
ちょっと人間臭いところを見ると、狐の癖に狐じゃないような気がして扱いに困る。
そして、ふと我に返り、また丁寧に毛づくろいを始める。
おかげでコイツが気に入って使う毛布には、黒い毛がたくさんついている。
「そういやお前、雌か?雄か?」
「雌だ。」
「お前こそ、連れの雄はいないのか?」
「いない。」
「まだ、子供か?」
「今年で4つになる。十分成獣。」
「なら、何で?」
俺のこの質問に天狐は答えなかった。
視線すら上げず、もくもくと尻尾の毛の流れを整えるだけ。
「風呂入ってくるわ。」
そう声をかけても無視。
突然ただの獣の狐に戻ってしまったかのようだった。
やっぱり俺、つままれてた?
風呂から戻ると、毬のように丸くなって眠っていた。
狐がいる事は夢じゃない。しかし、こいつが喋る事を俺は夢に見てたのだろうか。