第5章 忍れど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで
「ふぅん。この子があの時言ってた狐なの。」
「天狐という。世話になる。」
「シカマル。焼肉食べ放題はどうなったの?」
「せこい手でなんとかしようとしてたからチャラになった。」
髪の長い雌、いのと言う。
この雌は大層私が珍しいようで、早速甘い菓子をくれ、優しく撫でてくれる。
チョウジという肥えた雄は、その手に持っていたしょっぱい菓子を一つくれた。
「よーし、いいか。今日は手が足りなくて受けた簡単な任務だが気を抜くなよ。狐の天狐のデビュー戦だ、言葉が通じる分、ちゃんとチームワークを意識して挑め。」
「はい。」
アスマという雄は豪快に笑う気風の良い雄だ。
シカマルから再三と聞かされたが、今日の仕事は銭泥棒を捕まえる仕事だと言う。
縄張りのあの山では無い山へ向かうが、人間達は器用に大木の枝を踏み、まるで鳥の様に駆けて行くから驚いた。
この狐の私が後れを取るとは思いもしなかった。
「無様じゃ。」
「はん。しょーがねぇだろ。お前は忍の訓練を受けてないしな。」
「後で教えろ。」
「暇がありゃな。」
結局シカマルの腕に抱かれ、流れる景色を見送るだけの不甲斐ないことになった。
しかし、人間の腕とは案外しっかりしている物で、この、身を預ける感覚は少し癖になりそうだった。
目的の小屋が見え、その場に降ろしてもらい早速と頼まれた仕事をこなす。
犯人の残した物の匂いを嗅ぎ、その匂いがあの小屋にもあるのかを確認する。
人間では到底真似できないほど堂々と、さも狩りをしようかとうろつく狐を装い、頼まれた仕事を遂行する。
「当たりじゃ。中に居る。」
「何人いた?」
「三人。言っていた通りの人数。」
それからは私の出番など特になく、あっという間に泥棒はお縄にかかっていた。
戻る時は地面を歩き、のんびりとそして縄に掛かった三人の人間の雄を注意深く観察しながら人里へと戻る。