第4章 うらうらに 照れる春日に 雲雀上がり 心悲しも 一人し思へば
「天狐」
「天狐?」
「うん。私の名だ。」
「でも、お前、クロって呼ばれて満足そうにしてたじゃないか。」
「愛称とはよくある物だろう?別に自身が黒と呼ばれても構わん。」
「めんどくせぇな。」
梅雨が明け、積乱雲が立ち上がり、野山を走る黒狐が銭葵の香を運んでくるようになった頃。
この頃にはすっかり奈良家に居ついてしまい、親父が山の見周りに行く共までするようになってしまっていた。
今では一緒に縁側で俺と昼寝仲間。
コイツが横にいるとおふくろに怒られない。
「時にシカマル。惰眠を貪るには良い気候だが、ふがしを買いに行きたい。」
「人間の世界はな、タダで食いもんはもらえねぇの。」
「山の情報と引きかえておる。」
「頻度が多すぎる。オメー今日は饅頭貰ってただろうが。見てたぞ。」
「うぐ。」
よく回る口がびたりと閉じられ、天狐は鼻っ面を毛吹のいい尾に突っ込んでいた。
しばらくウトウトしていたのだろう。
次に声が聞こえた時には瞼がゆっくりと開いた。
「ん?」
「シカマルの仕事を手伝うのはどうかと聞いた。」
「お前には」
無理。
そう口をついて出そうだったが、こいつはただの狐では無い。
もしかしたら、ナルトや綱手様の蝦蟇や蛞蝓のように口寄せ動物になるかもしれない。
キバの赤丸のように忍犬みたいな事ができるかもしれない。
そう思い直して、改めて口を開いた。
「何ができる?」
「うん?」
明日、山で会う事を約束して、そこで連れていけるかの判断をする事となった。
多くの通力がある訳ではない。と言っていた天狐は少々自信がなさげではあったが、思案するようにゆっくりと今夜は山へ帰って行っていた。
「あら、クロちゃん帰ったの?」
「あぁ。準備するんだと。」
「準備?」
「なんかのな。」
「ふぅん。明日は来るかしら?」
「来るだろうなきっと。」
連れて行ける。と言えば歓喜して、連れて行けない。と言えば落ち込んで狩りをする気になれない。とか言い出すはずだ。
姑息な狐らしい。
(虹の季節)