第4章 うらうらに 照れる春日に 雲雀上がり 心悲しも 一人し思へば
それから数日が経ち、本格的な梅雨入りをした木の葉の里には、何処か重たげな空気が流れていた。
そんな中、また草むらから現れた狐は、長雨でびしょぬれになっているかと思ったが、黒狐の艶やかな毛は雨の玉を良く弾いて、濡れてはいなかった。
縁側では濡れてしまうので、仕方なく部屋に招き入れた。
が、ふがしが無い。と告げると憤慨して今すぐ買ってこい!だのと客人らしからぬ態度。
「あー、はいはい。わかった。買ってくるよ買ってくる。騒ぐな。」
「私はふがしが待っていると思って、満を持してここへ来たと言うのに。」
「ふがしがテメーを待ってる訳ないだろうが。」
「山の情報とふがしは引き換えじゃぞ。はように買ってこい!」
「へーい。」
って。なんで俺が狐ごときのために菓子を買いに行かなきゃならねんだよ。
おかしいだろうがよ。
菓子だけに。
傘を差して、狐の好きなふがしを買いに走った。
戻ってくると満足そうにそれを齧りながら、山の話。
梅雨の間、狐も人間と同様に暇なのか、それともここに来れば食い物にありつけると踏んでなのか、俺が休みの日をめがけて家に上がりこむようになった。
おふくろも親父も、快くこの不思議な狐を受け入れて、あっという間に家に馴染みやがった。
酷い時にゃ、うちで人間の姿になって普通に飯を食って行く始末。
あれやこれやと質問をしてくる狐が娘のようでおふくろが大層に気に入り、丁寧に教えてくれるおふくろを狐が気に入ってしまったもんだからたちが悪い。