第4章 うらうらに 照れる春日に 雲雀上がり 心悲しも 一人し思へば
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玄関を出た瞬間身を固め、尻尾を膨らませた狐。
解ってるとは思ったが、一応注意する。
「言葉を話す狐はいないからな。喋るなよ。」
人のようにコクコクと頷き了承した事を確認すると、母ちゃんが残しておけよ。と言っていたまんじゅうを買い足すために足を進める。
あの夜、森であった時とは打って変わって大人しい犬のように俺の足にくっついて歩く狐。
幸いコレが犬に見えるのか、周りを歩く人たちはたいして気にしてはいない。
足元に視線を落とせば、狐はきょろきょろと興味深そうに、そして色々聞きたそうに歩いていた。
視線が合うと、俺の視線を釣るように何処かへ顔を向けた。
駄菓子屋だ。
「気になるか?」
そう問い掛ければ、太い尾が注意深く揺れる。
きっと気になる物があったのだろう。
つい、と近づいてやれば、店先のふがしに興味を持っていたようだった。
「一個くれ。」
「はいよ。」
黒いちょっとコイツに似たふがしをひとつ買って与えて見た。
ふんふん。としばらく匂いを嗅いでしゃくしゃくと食べ始めた。
ぱきっと固まった砂糖が割れるのが楽しいのか、中のふわふわが気に入ったのか、あっというまに食い散らかしていた。
足を進めようやく目的の店にたどり着くと、狐がねだるように俺の足を尾で打つ。
仕方なくコイツの分のまんじゅうも買ってやると、上機嫌で満足そうに尾を揺らしていた。
帰りの足取りは軽く、家に戻ると解ったのか俺の少し先を歩いている。
キバがあれほどに犬を可愛がる気持ちが、少し解らなくもないと思ってしまった。
「シカマル!なんじゃさっきの食いものは!」
先の縁側に戻った瞬間、ぴょんと跳ねながらそう聞いてきた。
どうにもふがしが気に入ったようだった。