第4章 うらうらに 照れる春日に 雲雀上がり 心悲しも 一人し思へば
扱いにくい巫女の衣の裾をさばき、またその場に居直る。
人はなぜこうも面倒な衣を纏うのだろうか?
もう少し簡素なものでもいいと思う。
「お前の変化はお雛さんか?」
「おひなさんとは?」
「ほら、あれだ。」
シカマルの指さす方には段々になった赤い棚に、きちんと並べられた、似たような衣をまとった人形が置かれていた。
「母ちゃんが片付け忘れてそのまんま。兜もそのまんま。」
兜。と言って次に指さす方には、戦をする雄どもが身につける厳つい鉛でできたものが飾られていた。
「今時そんな御大層な格好してるやつなんかいないぜ。」
「じゃぁ、今時はどんな服装が流行りだ?」
「……見に行くか?」
「何処へ?」
「街だ。」
「行く訳なかろう。」
「犬に化ければ問題ないだろう。」
「犬などに化ける訳があるか。」
「じゃぁ、狐のままでいい。別に誰も取って食ったりゃしねぇ。」
気だるそうに立ち上がり、伸びをする。
本当に街に行くつもりらしい。
取って食われるつもりはないが、シカマルの言う事を疑うつもりもない。
しかし、今の今まで人の集落に自ら近づいた者が無事で帰って来た事など一度もない。
「何かあったら俺の狐ってことにしてやるよ。」
「はぁ?嘘であれ私に人間の腰巾着をしろと?」
「気になるんだろ?人間の世界。」
「うぅ。気にはなるが。」
気が引ける。
得体の知れぬ物をいとも簡単に操る人間は信用ならない。
しかし、シカマルは信用に足る人間だと思う。
それが側にいるならば、行って見たいと言う気がふつふつと湧き上がるのは押さえられない。
「行って見て無理なら帰ればいい。俺も用事がある、行くなら早いとこ行くぞ。」
「あ!待ってくれ!」
ぼん!と人の姿から、誇り高き黒い狐に身を戻す。
いい暇つぶしにはなりそうだ。
慌てて後を追いかけ、ガヤガヤと人の声のする踏み固められた人の道に出た。