第4章 うらうらに 照れる春日に 雲雀上がり 心悲しも 一人し思へば
あのシカマルとか言う雄の夜の訪問はあれからパタリと無くなった。
春も深まり、そろそろ初夏だという所。
柔らかな若葉はその葉を固くし、梅雨の香に誘われ梔子が咲き始めた。
小さな獲物たちも次々と動き出し、空腹に耐える季節は完全に終わりを告げた。
けれどその一方、満たされた食欲が別の色に変わる。
鹿たちは子育てで忙しい。
自慢話と他を馬鹿にする話しかしない烏どもは、巣作りで忙しい。
ここらで何度か見かけた熊は、異性の尻を追いかけるので忙しい。そもそも関わればまた痛い目に合わされかねない。
鼠や兎は論外、挨拶をしただけで尻尾を巻いて逃げる始末。
犬は人間の素晴らしいところしか話題に上げないし、猫はそもそも狐とつるまない。
「つまらんのう。」
本来であれば、雌の狐である私は仔を産んで育てている時期なのだろうが、狐たちの中で毛色の違う者は敬遠されがちだ。
中でも通力を持つ者はもっと避けられる。
同じ境遇の相手を見つければいい話なのだろうが、通力を持つ者は雌が多い。
雄などめったにいない。
そもそも毛色が違い通力を持つ狐などそこらにほいほいいる訳がない。
「人に化けて人里に下りるにも、変化が中途半端では無理だろうしな。」
独り言が多くなってしまうのも当然の事である。
昼下がりの縄張りの見周りもそろそろ終えようとした所、不意に見知った匂いを嗅ぎつけ、思わず足を向けてしまった。
「しまった。ここはシカマルたちの巣だったか。」
カサリ。と茂みを出ると目の前は奈良家の巣であった。
そしてその軒先では、シカマルが書物をつまらなそうに読んでいるところだった。
「ん。あ、狐。」
ずるずると尻を茂みに戻す音に気が付かれ、見つかってしまった。
「誰もいねぇから上がってこいよ。」
まさか人間の方から招かれるとは思ってもみなかった。
しばらく逡巡した後、招かれることにした。
「見周りついでか?」
「うん。」
「お前も暇だな。」
「まあな。」