第3章 春の園 紅にほふ 桃の花 下照る道に いで立つ娘子
「また会ったな。シカマル。」
ほらな。居ただろ?
「まあな。」
「何しに来ておる?」
「仕事だ。」
「しごと?狩りか?」
「何でもいいだろ。」
俺の足元に今日は狐のままで纏わりつく。
キバが、狐は好奇心が旺盛だ。と言っていたがさすがにここまでとは思っていなかった。
邪魔だ。
人の言葉が話せて、理解できるから鬱陶しい。
邪険に扱うのも気が引ける。
「狩りでなければ見周りか?」
「……。」
「意外と人間の雄も縄張り意識が強いのだな?」
「……。」
「お前の縄張りはこの山一帯か?だとしたら挨拶もせずに入り浸ってすまなんだ。」
良くしゃべる狐だな。
太い筆の様な黒い尻尾をゆらゆら揺らして、ちょこまかと歩きながらベラベラ話して、良く舌を噛まないでいられる。
さっきから狐に気を取られてばかりだったが、山の様子に特に変化は見られないようだった。
熊が現れて鹿を襲った様子は無い、それ以外の何かがこの山に潜んでいる様子もない。
鹿たちは落ち着きを払っているし、気配も穏やかだ。
「その先は危ないぞ。地が緩んでおる。」
「崖だろ?この先。」
「あぁ、ぽろぽろと岩が崩れていてな。先日子を産んだ母鹿が落ちてしまった。」
「鹿が落ちた?」
「うむ。毬栗の連れでな、子の成長を待たず死してかわいそうじゃった。」
「いがぐり?」
「この群れの次期筆頭候補の若い雄だ。」
「へぇ。」
「まだ、通力の調子が上がらなくてな。助けられなかった。」
狐の表情なんか解りはしないが、その話す様子から少ししょんぼりしているようにも見えた。