第16章 逢ふことの絶えてしなくはなかなかに人をも身をも恨みざらまし
俺には見せた事のない姿。
どうしてテマリには見せたのだろうか?
「そして言ったんだ。」
目を伏せ、まるで神様仏様に告げられたかのように。
「人ならざる私が、唯一愛した人間を、頼む。」
まるで、天狐の声が聞こえてくるようだった。
俺は知らず知らずのうちに涙を流していた。
御猪口になみなみ注がれている酒の水面に、波が立ち、わかった。
「そう、ひとつだけ。言ってほほ笑んだんだ。」
「天狐がそんなことを」
「言えなかった。シカマルに。今まで。」
「そんなこと、あいつ、ひと言も」
「お前に言うつもりはなかったんだろう。」
「聞きたかった」
「最後まで、人であろうとしてたんだと思う。」
「あいつの口から」
「だから、その姿をシカマルに見せはしなかった。」
「なんで」
「あの子は、北斗七星の化身、黒狐の天狐だから。」
「馬鹿やろう」
頬に伝う熱い涙を拭いてくれる指は、柔らかく暖かく優しい。
あの細く白い手とは違う手。
でも、同じ優しい手。
あぁ。
恨めしい。
(紅梅の季節がやってくる)