第16章 逢ふことの絶えてしなくはなかなかに人をも身をも恨みざらまし
「腹の子が凍えたらどうすんだ。」
「だったら、こっちじゃなくてあっちにいりゃよかったじゃねぇか。」
「で、あんたはこっちに居るのか?薄情だね。」
「んなわきゃねぇだろうが。俺も行く。」
「へぇ。めずらしい。優しいじゃない。」
「おめぇの我儘弟さんが気にかけてたろ、テマリとガキの事。たまには帰ってやってもいいかなと思っただけだ。」
「急に優しくされると、槍でも降るんじゃないかと心配になるよ。」
「あんだと。俺はいつも優しさで溢れてんだよ。」
「燗が足りなかったかな。酔っぱらってるんじゃないかい?シカマル。」
「半分も呑んじゃねェよ。」
「はは。はいはい。続きは炬燵でやんなさいな。つまみを出してやるから。」
「なんだよ。お前も妙に優しくて気色悪いぞ?」
「冬だからねぇ。」
「ん?」
柔和に笑って台所でつまみを用意する女の横顔に、ふと昔の事を思い出す。
急激にあの頃に戻りたくなる。
「あの冬の事覚えてるかい?ほら。木の葉のみんなで焼き肉に行った日の事。」
「あぁ。」
「あの日行った甘味所で、妙な事言われたんだ。」
「妙?」
「あぁ。」
炬燵に出されたつまみは、あの日を彷彿させる焼きマシュマロ。
よいしょ。と身重の体をゆっくりと炬燵に潜りこませる。
「お前が居なくなってから、ビックリするくらい美しい顔をしたんだ。」
「へぇ。」
「ハッとしたね。切れ長の目じりに全てを見透かしたような金の瞳。ピンと尖った耳に、豊かな尻尾。この世のものとは思えない美しいかんばせ。」
「なんだ、随分美化するな。」
「いや。ホントに。変わったんだ。」
「変化したってことか?」
「たぶん、あれが本当の姿だったのかもね。」
「なんで」