第15章 嘆けとて 月やはものを 思はする かこちがほなる 我が涙かな
「ん?」
ちらりと視界の端に天狐の外套が見えた気がした。
この路地を曲がればいつもの帰り道だが、あれからしばらく経っているのに待っている訳がない。
見間違いだろ。と思って路地を曲がると、目の前にはちょっとだけ不機嫌そうな天狐の顔。
「なんだ、その顔は。まるで幽霊でも見ているかのような顔じゃな。」
「いや。先に帰ってるとばかり思ってた。」
「みんなとはここで別れた。ふん。他に男が二人もいると言うのに、律儀に巣まで送ってきたか。」
「当たり前だろ。国賓だそ?途中でほっぽり出して、何かあったら俺の首が飛ぶ。」
「あれらとは友なんじゃろう?そうはならないはずだ。」
「まぁ、いいじゃねぇか。帰ろうぜ。さみい。」
「うむ。」
家は見えているが、手をつないでゆっくり歩く。
言葉とは裏腹に、寒くなりたい。と心のどこかが言っている。
そうすれば、布団の中で寒い寒いと言いながら、暖め合う事が出来るから。
あぁ。
恨めしい。
今、俺の腕の中に居る女をどうしても守りたい。
めんどくせぇなんてもう言わねぇから。
ここに居てくれって思う。
そっと、そっと。
揺さぶらず、傷つけず。
どちらにも傾けず、そのままで。