第15章 嘆けとて 月やはものを 思はする かこちがほなる 我が涙かな
この冬が明ければ、また空には北斗七星が輝き、山には新たな芽吹きが来る。
庭には梅の花が蕾を付け、それを眺めながら天狐の好きなふがしを食う。
花が咲けば、来年はその花で香を作るのも悪くない。
おふくろは花を摘むなと怒るかもしれないが、天狐のため。とうそぶいて自分のために作ってしまおう。
天狐に女らしく纏ってもらってもいい。
鼻が効かなくなる。と起こるか?
いや、そもそも、人間にそんな鋭敏な鼻は必要ない。
夏になったらかき氷を食おう。
あとは、祭りに連れて行ってやろう。
美味い食いもんが沢山ある。
今年は、耳を晒したくない。と行かなかったからな。
もう平気だろ。
あと、花火な。
どんな反応をするか楽しみだな。
秋になったら、また柿と栗拾いだな。
忘れちゃいけねぇのは秋刀魚。
あ、あとマシュマロ。
なんだ、食うことばっかりだな。
このままじゃ肥える一方だな。
いのかサクラにどやされる。
まぁ、それでもいいか。
あいつが食いたいって言うんだからな。
食わせなきゃ食わせないで、ケチ呼ばわりされる。
めんどくせぇ。
冬になったら天狐の毛皮で暖を取る。
んで、一年そんな感じで過ごす。
あわよくば、俺が死ぬまでそうやって過ごす。
あわよくばじゃねぇな。
そうすんだよ。
もしかしてだけど、子供も出来れば欲しい。
ん?その場合は狐になるのか?人になるのか?
天狐が起きたら聞いてみよう。
人間に、狐の耳なんか生えてたら、まぁ、なんだ。
ちょっと可愛いと思わなくもない。
尻尾が付いてると、冬にゃ重宝するが、家中毛だらけになりそうだな。
捨てがたいが、尻尾は遠慮しよう。
ふん。楽しそうだな。俺の老後。
(山眠る季節)