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~短歌~

第15章 嘆けとて 月やはものを 思はする かこちがほなる 我が涙かな




「やぁ、積もったなぁ。」

深々と降り続ける雪。
夕食後に天狐が親父と熱燗を傾けながら、そんな事を言った。
最近仕事が頓挫し多少暇になり、雪に映える黒い狐と共に過ごす時間が増えた。
まぁ、中忍試験は今年もお流れになったんだが。

「今年は雪が多そうだな。」
「鹿が心配か?シカク。」
「いやぁ、あいつらはあいつらで生き抜くから問題はねぇさ。」
「ふむ。そうじゃの、野の者は野の者なりの策がある。」
「うんうん。」

心臓が悪いと言うのに、そんな事も憚らず呑む天狐を何度も注意した。
しかし、この寒い季節。
天狐は良い訳のように、呑むと体が温まりそのまま眠ると次の日調子がいい。と言うのだから呆れる。
サクラにもこの間、遠回しに注意されたばかりなのに。
もう、気にするのもめんどくせぇ。
しかし、今日だけは許すわけにはいかない。
明日訪問してくる客人には、こいつもさんざん世話になっているから、礼を言わせに行くと約束しているのだ。
二日酔いの酒臭い奴を俺の横に立たせるのは嫌だ。

「天狐。わかってんだろうな。」
「あん?あぁ。テマリじゃろ?わかっておるよ。ちゃんと礼に行く。」
「わかってんなら、今すぐその徳利から手を放せ。」
「あー。あと半分だけ。」

はぁ。とでかいため息が出たのは見ての通り。
御猪口に半分だけ注いで、きゅ。と呑みほしてようやく止めた。
ほろ酔いで程よく温まった上機嫌の天狐は、幸せそうに俺と布団に潜りこむ。
機嫌がいいと暖かい尾を貸してくれるから良いんだが、如何せん酒臭い。
まぁ、既に馴れてしまっているのも事実だ。


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