第15章 嘆けとて 月やはものを 思はする かこちがほなる 我が涙かな
初雪が見え、里の人らの格好が段々と分厚くなっていく。
仕事へ行くにも外套が必要になり、益々あの尾先だけが白い黒い襟巻尻尾が恋しくなる。
あの憎まれ口が忌々しいと思う時もある。
しかし、それが無性に恋しくなる。
雪がうっすらと積もり始め、家の周りに小さな肉球の後が付く。
今日は何をしていたのか?
そんな質問も段々、今日は何処へ行っただろ。と変わる。
そんな質問をすると決まって次の日、人の姿で出迎えてくれる。
あぁ、だめだ。
こいつは狐だと言うのに、俺は一生こいつと添うことを考えてしまう。
だめだ。
やっぱり俺はまだ子供だった。
ジジイのように、今この時をお前と過ごせる事が何よりも幸せだよ。なんて科白出てきそうにもない。
すぐに先へ先へと進みたくなる。
これほどに、月日を恨んだ事はないだろう。
しかし、これ以上に感謝することもないだろう。
これから先も。
今、同じ布団の中でぬくぬくと眠りに付ける時間を。