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~短歌~

第14章 君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな




「うわ。カミナリ。」
「風の向きが変わった。」
「鹿がいなくなるぞ。」
「毬栗が木立へ呼んだのだろう。おい、シカマル。ちょっとは焦ったらどうだ。一時かもしれんが大いに荒れるぞ。」
「はぁ?家帰るか?」
「無理じゃな。」

そう言った途端。この山のどこかへカミナリが落ちた。
次いで拍手の様に大粒の雨が地面に落ちる。

「先に私の使っていた洞がある!人が入れるほどの大きさじゃ!」

シカマルの腕を降り、体に刺さる雨の中、前に私が巣にしていた大木へと走った。
洞に飛び込み、外を振り返れば滝のような雨とやむ事を知らない雷様の太鼓。
真っ黒の雲に覆われあっという間に夜になった山にびかりと閃光が走る。

「ひでぇ雨。」
「春と秋は不安定でな。こんな天気の後はケロリと晴れる事が多い。」

ぶるぶると体を震わせ水滴を飛ばす。
人二人が余裕で居座れる広さの洞には、風に運ばれてきた枯れ葉が多く積り、少し暖かだった。
横からビチャリと重たい音が聞こえ思わず視線を向けると、シカマルのずぶぬれの上着が脱ぎ捨てられ、薄い肌着一枚になっていた。

「寒くないのか?」
「着てる方がさみぃ。おい、天狐。お前の上等な毛皮は濡れてないんだろ?貸してくれ。」
「へたくそか。もっと普通に貸せと言えばいいのに。」
「剥ぐぞ。」
「血肉ある方が暖かいじゃろうが。」

枯れ葉を積み上げ、出来るだけ雨風が入らないように入口を塞ぐ。
そうすれば洞の中だって温まるし、シカマルとくっついていればなお暖かいじゃろう。
胡坐をかいたシカマルの膝に丸くなれば、少し湿っていたが寒くはなかった。

「なぁ天狐。もうちょっと大きくなれないのか?小さくてろくに温まれもしねぇよ?」
「このこじんまりした洞の中で、はち切れんばかりに大きくなってもいいと言うのならやろう。」
「出来ねぇなら出来ねぇって言えよ。」
「出来ねぇ。」
「なら、人になれ。人肌の方があったけぇから。」


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