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~短歌~

第14章 君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな




「食うものに困ってな。知らぬ場所へ足を運び、目の前に見つけたのが熊と被った。早い者勝ち。と食ったのをひと冬越した先も恨み辛みじゃ。」
「普通、狐が譲るもんじゃないのかよ。」
「鈍間な熊が、私ら狐にすばしこさで勝るとは思えんからな。」
「随分驕ったもんだな。」
「報いを受けたよ?」

下手糞に枯れ草をかき分け歩くシカマルの笑い声か、カサカサとぶつかる草の音かわからないが、嘲るように笑われたのは確かだった。

「その熊、まだここに居んのか?」
「さぁの。この山はお前とシカクの縄張りだ。熊は意外にも臆病だからなぁ。人や人里の側にめったに寄る事はせん。」
「ま。鹿が騒いでないなら平気だろ。」
「今の鹿の王は随分と慎重な性格らしくて、仲間にも信頼されておる。危険があればすぐにそれとわかる。」
「毬栗とか言う奴か。」
「うん。優秀でな。山が静かなら危険はないじゃろう。」

ようやくぽっかりと開けたところに出ると、ぽつりぽつりと鹿の姿が見えた。
突然のシカマルの登場に驚いてはいたが、腕に私が抱かれているのを見て、また草を食むことに集中し始める。

「おーいるいる。」
「異常はないようだな。ほれほれ、立ち止っていないで先へ進まんか。ヨシノの夕食にありつけなくなっては元も子もない。」
「偉そうに。」
「付いて行くと言ったのは誰じゃったかの?」
「めんどくせぇ。」
「こっちの科白。」

おや?風向きが変わった。
顔を上げて空を仰ぎみれば、ただの厚雲に雷様が居座った。
雷様が喚きたてる前に戻るのは難しいだろう。
もう、すぐだ。
どんどこと太鼓が鳴り始める。


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