第13章 浅芽生の 小野の篠原 忍ぶれど あまりてなどか 人の恋しき
『僧帽弁閉鎖不全症』とは。
心臓の弁が何らかの要因で上手く閉じなくなり、血液が逆流。逆流した血液で膨らんだ左心房が気管を圧迫し乾いた咳がでる。
症状が進行すると、肺の中に血液が溜まり『肺水腫』を引き起こす。
『肺水腫』とは。
肺に水がたまる症状。溜まった水分が呼吸を妨げ、呼吸困難に陥ったりする。ぜーぜーと息をしたり、湿った咳が出る。急なむくみも現れる。
犬と人間混ざり合ったような診断で難しかったと思う。
綱手様が丁寧に説明して下さり、よく理解は出来た。
「『僧帽弁閉鎖不全症』に関しては外科手術が必要になる。しかし、多少『肺水腫』の症状を和らげてからじゃないと難しいかもしれんな。」
「その『肺水腫』は治るんすか?」
「治す事は出来る。しかし、天狐はかなり症状が進んでいるから、治し切るのは難しい。まして……いや、はぐらかすのはやめよう。」
カルテを見て、また改めて俺の方を見る。
あぁもう。嫌な予感しかない。
「症状を抑える事は出来る。利尿剤が有効で肺の水を追い出してくれよう。しかしな、天狐の心臓は弱っている。『僧帽弁閉鎖不全症』の症状を補う形で心臓に負荷が掛かり過ぎた。いつ『心不全』が起こってもおかしくはない。」
「火影とやら。それは私の心臓が止まるのも時間の問題じゃと言う事か?」
「その通りだ。無理をすれば寿命は縮まる。お前には他の狐にはない力がある。それのおかげで耐えて来たのだろう。」
「うーん。そうか。いやうん。何となく解ってはおった。ここ最近通力が溜まりにくく、何処かに吸い取られている気がしていてな。そうか、心臓だったか。」
余命宣告をされた本人は、意外にもあっけらかんとしていた。
無理をしているようにも、隠し通す演技をしているようにも見えはしなくて、また、あられもない嫉妬というか怒りというか、もやもやした気持ちが持ちあがった。
「咳が軽くなるよう薬は出すよ。あまり心臓に負荷を掛ける事はしないように。」
「あい、わかった。」