第13章 浅芽生の 小野の篠原 忍ぶれど あまりてなどか 人の恋しき
ベラベラと鹿の名前や自分につけられた名前の事を、当てもなく喋る天狐。
必死にさっきの事を何処かへ追いやろうとしているようにも見え、さすがに心苦しくなって来た。
俺が折れて、一緒に行ってやる。と言うべきかとも思ったが、こんな機会二度ないだろう。
天狐が折れるまで粘って見よう。
「じゃから、雌には木の名前が付き、雄は実や草の名が多い。」
「へぇ。」
「ゴホゴホ!」
「段々冷えるな。ほら、乾いたんならさっさと寝るぞ。悪化したら元も子もねぇ。」
「うむ。そうじゃな。」
ちょっと不満げに立ちあがり、肩にかけていた単衣を引き上げる。
天狐用の布団を一応敷いてやっていると、ついに思いきるように口を開いた。
「のう、シカマル」
「ん?」
「そのぅ…今日は一緒に寝てもいいか?」
「なんだよご丁寧に。いつも勝手に暖取りに来るじゃねぇか。」
「そ、そうだったな。」
あからさまなその様子に笑いをこらえるので精一杯だ。
ニヤつく口を無理に抑えて不機嫌な顔になる。
あぁ、もう。
じれったい。
「天狐。言いたい事があんなら言えよ。」
聞くや否や、しょぼくれていた天狐の耳がにわかに立ち直る。
まるで免罪符を貰ったコソ泥だな。
「言いにくいんだが、明日、サクラの所へ一緒に来てくれないか?」
それでもプライドが邪魔をしているのか、俺から目を逸らして、枕を整えながら言いきった。
まぁ、多めに妥協して及第点。
「昼過ぎでいいか?それまでには終わらせとく。」
「す、すまんな。わざわざ!」
「いいよ、別に。」
あからさまな喜び。
既に布団に潜り込んでいた尻尾は、もこもこに膨らんでいる事だろう。
黒い獣の耳も、自慢の尖った耳に元通り。
喉のつっかえが取れて、ようやく今日買ってきた菓子の事を思い出したのだろう。
次の言葉が「さっきの菓子、何処に置いたかな。」だったから。
実に子供っぽくて、動物臭い。
そんな所を可愛いと思う俺は、こいつにつままれまくっているのだろう。