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~短歌~

第13章 浅芽生の 小野の篠原 忍ぶれど あまりてなどか 人の恋しき




「あぁ。そうだな。」

わざと気が付かないふりをしてやった。
まだ少し湿った黒髪を櫛で梳く。
横を向こうとしていた天狐の頭を前に向けさせることも忘れない。

「いつまで掛かる?今日ほどの時分であれば暇か?」
「どうだろうな。あれ以外にもやんなきゃなんねぇ事はある。」
「うぅ。そうか。」

ゲホゲホと咳こむ様子も、何となくわざとらしく見えてしまうのは、自意識過剰だろうか。
天狐はしばらくされるがまま。
乾いたぞ。と次は尾を梳くために櫛を手渡すと、ずっと喉の奥で言いあぐねていたのだろう、喉がつっかえてしょうがない顔をしていた。

「どした?」
「い、いや。どうしてもか?」
「なにが、どうしてもなんだよ。」
「いや。」

なにが邪魔をしているのかは何となくわかる。
変に高いプライドと、自分の弱さを見せる気恥かしさといったところだろう。
さらにプラスするなら、俺に。というのが付く。
からかうのもこれぐらいにしてやるか?でも、もう少しこの焦れる天狐を見ていたい気もする。

「何でもなきゃいいな。咳。」
「え?あぁ、そうじゃな。」
「ま、熱もでちゃいねぇし、食欲がないわけでもないから、大丈夫だろ。」
「うむ。そうだな。」

まったく別の事を考えていたのだろう。
そして、望んでいた言葉に掠る言葉でがっかりしたって言いたげ。

「そういや、山の様子はどうだ?そろそろ鹿の群れが固まる時期だろ。」
「うむ。まぁ、予想通りの結果だったと言うべきだろうな。」
「へぇ。」
「ほら、あの毬栗とか言う雄鹿がいたじゃろう?やはりあれが多くの雌を囲い、王になった。」
「鹿にもやっぱり名前とかあんだな。」
「当たり前じゃ。」


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