第13章 浅芽生の 小野の篠原 忍ぶれど あまりてなどか 人の恋しき
職場を出て、先ほども出向いていた病院へと足を向ける。
笠の下で珍しく黙ってい歩いている天狐を見て、具合でも悪いのか?と心配しかけた時、その耳を隠すための大きな笠の下からクスクスと笑い声が漏れて来た。
「なに笑ってんだよ。」
「いや。なに。シカマルは選り取り見取りじゃと思うてな。」
「は?」
「雌によう好かれる性質なんじゃなぁ?こりゃ、私もうかうかしておれんて?」
「馬鹿か。俺はそんな薄情な男じゃねぇよ。」
「ほう、ゲホ。」
背を丸め少し苦しそうな咳。
風邪を拗らせちまったんだろうか。
「お前、何でそれで来た?」
「人の風邪だろうとヨシノが言うでな。こちのままの方がいいと思ったまで。」
「どっちにしろ。お前のその姿を見てもらうにゃ、サクラか火影様しかいねぇんだから、狐でも良かったんじゃねぇの?」
「あぁ。それもそうだった。」
自分でそうは聞きつつも、人目に付く真っ昼間に並んで歩き、周りの奴らの視線が天狐に注がれていることに何となく優越感。
こんな時だが不謹慎にも、病院が遠ざかってくれればと思ってしまった。
木の葉病院の受付で、サクラを指名し、悪いと思ったが出てきてもらった。
「天狐ちゃん、大丈夫?」
「うむ。大事ないとは言えないな。」
誰もいない診察室を借りて、サクラが天狐の様子を見ていく。
「ゴホッゴホ。」
「ん?この咳、今朝から?」
「あん?だから、咳は前からだっつってんだろ。」
「違うわよ。湿った、痰が絡むようなゴホゴホって言う咳。」
「そう言えば、今までは空っ咳じゃった。」
「乾いた咳ね?」
「うん。ただただ喉が掠れて咳が出ておったような。なにか、こう引っかかるような咳は昨夜からじゃなぁ。」
サクラが首を捻りながら、天狐の首や胸に触れ段々と険しい表情になっていく。
素直に人間でもない天狐の病状を的確に把握するには難しいのだろうか。
やっぱり行くべきは動物病院だったかもしれないな。
「あら?天狐ちゃんふとった?」
「秋じゃから。」
「所構わず年中食い歩いているからだろうが。」
「年中?最近特に食べたりとかは?」
「うーん。ないと思う。まだ、本格的に冬に備えるにはちと早いしの。」
他にいくつか質問を受け答えし、この日は返された。