第12章 黒髪の 乱れも知らず うちふせば まづかきやりし 人ぞ恋しき
人の姿に、軍手と火ばさみ。それから中くらいの籠を二つ俺の前に差し出す。
起き上がるのも億劫だと言うのに、こいつは秋の実りにはしゃぐ。
こいつの食い気はいつ収まるのだろうか。
本当にチョウジ見たいになってもしらねぇぞ。
「んなもん、一人で行けよ。」
「一人では手が足らぬ。籠は二つと持てないからな。」
ぐいぐい。と俺の方に籠を一つ押しつけてくる。
いったい、どれだけ拾うつもりしてんだ。
で、結局天狐に引っ張られ山に入った訳だが、奈良家の山だと言うのに、こんなに栗や柿が生っていると知らなかった。
いつの間にか真剣になって栗や柿を拾い集め、籠いっぱいに詰め込んだ。
「ヨシノ!ヨシノ!見ろ、柿がたわわに生ったのだ!」
「あら!こんなに!」
自慢の尾に付いている枯れ葉を振り払うこともせず、籠を抱きしめ台所へと駆けていく様子は、不覚にも可愛いと思ってしまった。
次に、小さなかごを二つ出して、柿と栗を詰め始めた。
「どうすんだそれ。」
「いのとサクラへの、いつも菓子を馳走になる礼だ。」
「はー。それで。」
「世話になってばかりではいかんじゃろう。」
意外にもまともな思考で驚いた。
夕食後なら家に居るだろう。と踏み、なぜかまた俺が荷物持ちで、天狐のお礼参りに付きあわされた。