第11章 住の江の 岸に寄る波 よるさへや 夢の通ひ路 人目よくらむ
もう、なにがあったかを説明する気にもなれん。
一日振りまわされた疲れの所為か、ケホケホと咳が出た。
「咳?」
「最近人になっている事が多かったから、風邪でも引いたのだろう。」
「まぁ、季節の変わり目だからな。」
「人の体は弱い。」
「お前の好きな菓子を作るのは人間だけどな。」
「うむ、そこはいい所だ。」
シカマルたちは波の国でちょっとした面倒に巻き込まれていたらしい、主にテンテンとかいう雌が。
帰りには精神的に疲労困憊し、ゆっくりと里へ向かっている最中だったという。
彼らの増援部隊だった私たちも、任を果たし一緒に里へ戻る。
報告を彼らの班長アスマに任せ、各々家に引き揚げる。
シカマルの布団で丸くなるや、またケホケホと咳が出た。
「明日、風邪薬でも買いに行ってやるよ。」
「それは、人用か?犬用か?」
「そうだな。犬用だな。」
「まぁ、そうだよな。ふむ、明日からはもう少し人の型の修業に精を出そう。」
「体力付けねぇとな。」
「そうだな。」
ようやく落ち着いて大きな息をした。
肺いっぱいのシカマルの匂い。
安心しきってしまう。
こんなにも穏やかで気の抜け切った眠りは、幼い頃母の胸で眠った時以来だ。
もう、獣には戻れないだろうな。と頭の奥底で言い切る。
そして、戻りたくない。とも同時に想う。
(稲雀の季節)