第2章 春の夜の 闇はあやなし 梅の花 色こそみえね 香やは隠るる
いつの間に眠っていたのだろうか、雄が巣に戻ってくる音がした。
こちらに近づいてくる気配もし、慌てて身を起こしできる限り隅に寄った。
「んだよ。だから、なにもしねぇって。」
布が捲られ、まぶしく目を眇めてしまった。夜の気配がするのに太陽が照っている不思議な巣だ。
また、入口が開くと同時に体が動かなくなり、もしかしたらそういうのもなのかもしれないと納得する。
新しい食事と水が足された。
良くしてくれるのはいいのだが、如何せん量が少ない。
また布が掛けられ夜がやってくる。
朝が来るとまた雄が顔を覗かせた。
もうあまり警戒しなくてもいいのかもしれない。
飯をくれる良い雄だ。
しかし、突然檻が揺られ始め、嗅いだ事のない匂いに包まれる。
布を捲られると見た事のない雄がいた。
すぐに、また入口が開かれ体が動かなくなり、ここはどこかと考える前に見知らぬ雄が私の体にチクリと何かを刺した。
眠い。
ぱちり。と目を開けた時には、また布が掛けられているのだろう暗かったが、辺りの匂いは飯をくれる雄の巣の匂いになっていた。
一体何が起きていたのだろうか。
「よう。起きたか。飯食えよ。」
また飯。
足に力を入れて立ちあがると、昨日より軽く立ち上がる事が出来た。
もしやこの雄は、私の怪我を治すためにこの訳のわからない所に閉じ込めているのだろうか。
よもや、人間の雄がせっせと餌を運んできて求婚をしているとは思えない。