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~短歌~

第2章 春の夜の 闇はあやなし 梅の花 色こそみえね 香やは隠るる




私は人間の言葉が解る。
何と言い表せば良いかわからないが、神通力、妖気。私の血族に玉藻前がいたと言う話だ。
故に私も少々の通力は使う事ができる。
通力を持つものが始めにする事は、他の動物の言語を覚える事だから、人間の言葉も多少解る。
だから今、この人間の雄が、私に何かをするつもりはないと言う事は伝わった。
しばらくして巣に戻ってきた雄は、手にいい匂いの肉を持っていた。
狩りに行ってきたのだろうか?

「大丈夫だ。ほら、飯。」

雄がその肉を檻の中の椀に投げ入れた。
よだれがでる。
しかし、人間の物には安易に手を出してはいけない。
奴らは食い物に毒を盛るから。
しばらく巣をうろうろして、雄はとうとういなくなった。
目の前の肉はうまそうだが食う訳にはいかない。
体を縮こまらせていたからか、怪我をした所が痛む。
今のところこの檻からも出られそうにはない。
寝よう。

しばらくして戻ってきた雄は、手に様々な物を抱えていた。
人間の手は便利だ。
掴みにくそうなものでもやすやすと持ち上げてしまう。
以前、人に化けた時に何と便利な事かと驚いた記憶がある。
山を歩くには不便だったが。

雄は大きな音を立てながら、檻に布を掛けた。
次に何をしたのか私の体が動かなくなった。
どれだけ力を込めようとピクリとも動かない。
自慢の通力も体がこの通りでは使えない。
雄は気にする風でもなく、檻の入り口を開き、人間の匂いのしない乾いた肉と果物、水を置いてまた入口を閉めた。
同時に体も解放され、布も降ろされ真っ暗になった。

「おい、狐。早く治してさっさと帰れ。」

言われなくてもそうする!
雄の動く音は聞こえるが、見えぬだけでこんなにも安堵するものなのか。
やがて雄はいなくなり、もうどうする事も出来ないほどの空腹についに肉と果物に口を付けてしまった。
大丈夫、人間の匂いはしない。
味もおかしくない。

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