第11章 住の江の 岸に寄る波 よるさへや 夢の通ひ路 人目よくらむ
今日は酒を控えた。
続けて酒を浴びるのは狐としてどうかと思ったからだ。
今宵は盛り上がるシカクとアスマに断りを入れ、酒盛りに興じる縁側を後にした。
「ん?今日は飲んでこなかったのか?」
「毎日毎日飲んでおって、山に馴染めず兎も鼠も私の牙に掛からなくなったら困る。」
「は。そればっかりだな。」
「それ?」
「食うことばっかり。」
「肥ゆる秋じゃからな。」
単衣の腰帯を解き楽にし、狐に戻る。
「いいじゃねぇか。人のまんまでも。」
「酒と一緒。昨夜のような事情になるのは避けたい。」
「身体、辛かったか?」
「いいや。そんな事はないが、ほどほどにせんといかんような気がするだけだ。」
「あっそう。」
シカマルは明日の仕事の資料だろうか。
何か作業をしていたようだったが、成人に成り切らない若干の青臭さ漂う背中を向けたまま会話を続ける。
「そろそろ櫛の数、増やさねぇとな。」
「どうして?」
「一つじゃ、どっちかしか毛が梳けねぇだろ。」
「まぁ、そうじゃな。それのどこに問題が?」
「冬に向けての準備。」
いったい何の事を言いだしたのか見当がつかず、視線を上げないシカマルの机の上に飛び乗った。
ようやく視線を合わせたシカマルの面倒くさそうな目。
私の自慢の金の目とかち合う。
「換毛期。」
いいながら私の尖った耳をきゅとつまむ。
むろん、そんな事を許す私では無く、口を開けその手を甘噛みしてやろうと鼻を向ける。
しかし、ガチリと噛んだ所に既にシカマルの手はなかった。
「フン。その手入れくらい自分でやる。」
「やるなら外でやれよ?」
「お前の部屋でゆっくりやるよ。」
「まき散らすなよ。毛。」
「はいはい。」
明日から任務という事で、あまり夜更かしはせずに布団に入った。
横になったシカマルの肩に身を寄せ、丸くなって眠る。
誰かと身を寄せ眠る事がこんなにも楽しく、心から安心できる事を初めて知った。
大きく息を吐き幸せに瞼を閉じて、また明日もと朝日を期待し眠った。