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~短歌~

第11章 住の江の 岸に寄る波 よるさへや 夢の通ひ路 人目よくらむ




ごしごしと風呂を洗いながらふと思う。
暑い。
実り豊かになる季節だと言うのに、今年は残暑が厳しい。
頭を垂れる稲穂が焼け焦げてしまわないか心配だ。
楽しみにしている奈良家の庭が色付くのも、もうしばらく掛かりそうだった。

「ヨシノ!終わったぞ。」
「ありがとう。お菓子、食べていいわよ。」
「ありがとう!」

用意されていた冷たい茶と羊羹。
わざわざ縁側に持って行き、夏とあまり代わり映えのしない庭を眺める。
しばらくするとヨシノも同じように菓子を持ってきて、縁側に並んで座る。

「今年は夏が長いわね。」
「うむ。私は秋の実りが待ち遠しい。」
「秋と言えば秋刀魚ねぇ。待ち遠しいわね。」
「秋刀魚?海の魚が待ち遠しいとは?」
「一番おいしい時期なのよ?出回り始めたら、炭火で焼いて食べさせてあげるよ。」
「それもまた楽しみじゃ。」

蝉こそ鳴かなくなったが、夏の色の濃い景色はこれから来る先の季節を益々待ち遠しくさせた。

「あぁ、そうだ。ヨシノ。昨日、いのとサクラに菓子を奢って貰ったと言っただろう?」
「えぇ。」
「たまには礼をしたいと思う。なにをしたらよいだろうか?」
「うーん。それこそ、そろそろ秋になるんだから。うちの山の栗でも持って行ってあげたら?」
「ほう、そうじゃのう。奥に生っている柿の実も良いじゃろうか。」
「あら、柿なんて生るの。良いわね。」
「それは少しヨシノにもあげよう。」
「ありがと、天狐。」

何度も言うが。
秋が待ち遠しい。


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